陰謀論の哲学の文献

また徐々に更新していきます

 

Bergamaschi Ganapini, M. "The signaling function of sharing fake stories." Mind & Language.(forthcoming)

 

Boudry, Maarten. "Why We Should Be Suspicious of Conspiracy Theories. A Novel Demarcation Problem." Episteme (2022):1-21

 

Buenting, Joel, and Jason Taylor. "Conspiracy theories and fortuitous data." Philosophy of the Social Sciences 40.4 (2010): 567-578.

 

Cassam, Quassim. Conspiracy theories. John Wiley & Sons, 2019.

 

Cassam, Quassim. "Conspiracy theories." Society, 2023.

 

Cíbik, Matej, and Pavol Hardoš. "Conspiracy theories and reasonable pluralism." European Journal of Political Theory 21.3 (2022): 445-465.

 

Clarke, Steve. "Conspiracy theories and conspiracy theorizing." Philosophy of the Social Sciences 32.2 (2002): 131-150

 

Coady, David. "Are conspiracy theorists irrational?." Episteme 4.2 (2007): 193-204.

 

Coady, David, ed. Conspiracy theories: The philosophical debate. Routledge, 2019.

 

Cohnitz, Daniel. "On the rationality of conspiracy theories." Croatian Journal of Philosophy 18.2 (53) (2018): 351-365.

 

Dentith, M. RX. The philosophy of conspiracy theories. Springer, 2014.

 

Dentith, M. RX. "Suspicious conspiracy theories." Synthese 200.3 (2022): 1-14.

 

Dentith, M. RX. "Debunking conspiracy theories." Synthese 198.10 (2021): 9897-9911.

 

Dentith, M. RX. "The Iniquity of the Conspiracy Inquirers." Social Epistemology Review and Reply Collective 8.8 (2019).

 

Dentith, M. RX, and Martin Orr. "Secrecy and conspiracy." Episteme 15.4 (2018): 433-450.

 

Dentith, M. RX, ed. Taking conspiracy theories seriously. Rowman & Littlefield, 2018.

 

Dentith, M. RX. "Expertise and conspiracy theories." Social Epistemology 32.3 (2018): 196-208.

 

Dentith, M. RX. "The problem of conspiracism." Argumenta 3.2 (2018).

 

Dentith, M. RX. "When inferring to a conspiracy might be the best explanation." Social Epistemology 30.5-6 (2016): 572-591.

 

Duetz, J. C. M. "Conspiracy Theories are Not Beliefs." Erkenntnis (2022): 1-15.

 

Feldman, Susan. "Counterfact conspiracy theories." International Journal of Applied Philosophy 25.1 (2011): 15-24.

 

Hagen, Kurtis. "Conspiracy theorists and monological belief systems." Argumentation 3.2 (2018): 303-326.

 

Hagen, Kurtis. "Is conspiracy theorizing really epistemically problematic?." Episteme 19.2 (2022): 197-219.

 

Hagen, Kurtis. "Are ‘Conspiracy Theories’ So Unlikely to Be True? A Critique of Quassim Cassam’s Concept of ‘Conspiracy Theories’." Social Epistemology 36.3 (2022): 329-343.

 

Harris, Keith Raymond. "Conspiracy theories, populism, and epistemic autonomy." Journal of the American Philosophical Association (2022): 1-16.

 

Harris, Keith Raymond. "Some problems with particularism." Synthese 200.6 (2022): 1-25.

 

Harris, Keith. "What's epistemically wrong with conspiracy theorising?." Royal Institute of Philosophy Supplements 84 (2018): 235-257.

 

Hawley, Katherine. "Conspiracy theories, impostor syndrome, and distrust." Philosophical Studies 176.4 (2019): 969-980.

 

Ichino, Anna, and Juha Räikkä. "Non-doxastic conspiracy theories." Argumenta 2020 (2020): 1-18.

 

Keeley, Brian L. "Of Conspiracy Theories." The Journal of Philosophy 96.3 (1999): 109-126.

 

Lepoutre, Maxime. "Narrative counterspeech." Political Studies (2022): forthcoming

 

Levy, Neil. "Radically socialized knowledge and conspiracy theories." Episteme 4.2 (2007): 181-192.

 

Levy, Neil. "Do your own research!." Synthese 200.5 (2022): 1-19.

 

Mandik, Pete. "Shit happens." Episteme 4.2 (2007): 205-218.

 

Munro, Daniel. "Cults, Conspiracies, and Fantasies of Knowledge." Episteme (2023): 1-22.

 

Napolitano, M. Giulia, and Kevin Reuter. "What is a Conspiracy Theory?." Erkenntnis (2021): 1-28.

 

Napolitano, M. Giulia. "Conspiracy theories and evidential self-insulation." In The Epistemology of Fake News (2021): 82-106.

 

Nina Poth and Krzysztof Dolega "Bayesian belief protection: A study of belief in conspiracy theories," Philosophical Psychology (2022)

 

Pigden, Charles. "Conspiracy theories and the conventional wisdom." Episteme 4.2 (2007): 219-232.

 

Peters, Michael A. "On the epistemology of conspiracy." Educational Philosophy and Theory 53.14 (2021): 1413-1417.

 

Räikkä, Juha. "On political conspiracy theories." Journal of Political Philosophy 17.2 (2009): 185-201.

 

Räikkä, Juha, and Juho Ritola. "Philosophy and conspiracy theories." In Routledge handbook of conspiracy theories (2020): 56-66.

 

Rosenblum, Nancy L., and Russell Muirhead. A Lot of People Are Saying. Princeton University Press, 2019.

 

Shields, Matthew. "Rethinking conspiracy theories." Synthese 200.4 (2022): 1-29.

 

Shoaibi, Nader. "Responding to the spread of conspiracy theories." Inquiry (2022): 1-26.

 

Sunstein, Cass R., and Adrian Vermeule. "Conspiracy theories: Causes and cures." Journal of Political Philosophy 17.2 (2009):202-227

 

Uscinski, Joseph E., and Adam M. Enders. "What is a Conspiracy Theory and Why Does it Matter?." Critical Review (2022): 1-22.

 

Uscinski, Joseph E. "The study of conspiracy theories." Argumenta 3.2 (2018): 233-245.

 

Wagner-Egger, Pascal, et al. "Awake together: Sociopsychological processes of engagement in conspiracist communities." Current Opinion in Psychology (2022): 101417.

 

秦正樹、『陰謀論――民主主義を揺るがすメカニズム』2022年、中公新書

 

ジョゼフ・E・ユージンスキー(北村京子)、『陰謀論入門:誰が、なぜ信じるのか?』2022年、作品社。

Cassam, QuassimによるConspiracy theories, John Wiley & Sons, 2019のレジュメ

 

Cassam, Quassim. Conspiracy theories, John Wiley & Sons, 2019.

Ch.1 The (Real) Point of Conspiracy Theories

陰謀論を論じる際に問題となるのは、やはり「陰謀論」をどう定義するのかという問題

➡というのも「少数の人間が秘密裏に不法行為を行う」という意味での陰謀(conspiracy)は、歴史にあふれているし、こうした陰謀を信じている人を陰謀論者と呼ぶのであれば、我々のほとんどは陰謀論者になってしまう(こういう意味では 9.11 なども一種の陰謀)。

 

・それでは、我々が普通、(悪いニュアンスをこめて)陰謀論と呼んでいるものは何か?

➡Cassam は、上記の意味での陰謀論と区別して、こうした我々が普通日常で使う陰謀論という言葉を、大文字のC と T を用いて Conspiracy Theories と呼ぶ。

 

・この意味での Conspiracy Theories は、単に「少数の人間が秘密裏に不法行為を行う」という陰謀についての理論ではない。

➡Cassam によれば、Conspiracy Theories とは、政治的アジェンダの推進をその機能とする、ある種の政治的なプロパガンダである(たとえば、極右や反ユダヤ主義によるシオン賢者の議定書など)。ただあらゆる、陰謀論が政治的プロパガンダであるわけでもない。

 

陰謀論プロパガンダの繋がり

➡Conspiracy Theories advance a political objective in a special way: by advancing seductive explanations of major events that, objectively speaking, are unlikely to be true but are likely to influence public opinion in the preferred direction(Cassam[2019]p. 11).

 

プロパガンダという特徴付けについて・・・プロパガンダという言葉は、あたかも特定の政治効果を意図した行為であるという含意を含んでいるように見えるが、実際には特定の事実や信念について信じておらずとも、政治的プロパガンダとして機能しうる。

➡政治的プロパガンダの機能主義的な理解

 

・こうした政治的プロパガンダとして機能する陰謀論は、たいていの場合、フェイク・ニュースであったり、事態の記述として正確でない。

陰謀論が正確でない根拠は、陰謀論を特徴づける諸々の特徴に原因がある。

 

Cassam が挙げる陰謀論の特徴

思弁的(speculative)であること

➡知識が思弁的であるとは、確固たる知識に基づいていない、あるいは、憶測に基づいた

知識であるということ。対照的に、客観的な知識に裏付けられた「陰謀」の事例として、ケネディ政権時に、カストロ政権を攻撃するための口実を得るために、アメリカ国内で自演テロを起こそうとしたノースウッズ作戦。

 

・また、「思弁的」と呼ぶことは、陰謀論が既に反証されていることとも両立する。たとえば、思弁的だが既に反証されている陰謀論ホロコースト否定論。なので、「思弁的」と呼ぶことには、未だ反証されていないので、将来的にその存在が立証されうるという含みはない。

 

②本質的に逆張り(contrarian by nature)

➡何に対して逆張りであるのかは複数の解釈があり得る。陰謀論の文献で有力な 1 つの解釈は、政府等の公式見解(official account)に対する逆張り。ただ、政府自体が陰謀論的な主張を行う時もあるので、この逆張りの理解は不適切(e.g. ブッシュ政権イラク侵攻時の大量破壊兵器に関する主張)。

 

・なので、ここでは、ある出来事の外見や明らかな説明 (appearances or the obvious

explanation of event)に対する逆張りと解釈したい。

➡たとえば、9.11 のビル崩壊は、飛行機の突入ではなく(ある出来事の明らかな説明)、内部に設置された爆弾が原因だという陰謀論

 

・以上に加えて、陰謀論が持つ別の特徴として、出来事の明らかな説明から離れて③秘境的なもの(the esoteric)に走りがちであり、④素人の(amateurish)観点から出来事に説明を 加える傾向がある(e.g. 9.11 爆弾説を唱える人に機械工学等の専門知識がある人はごく少数)。そして、最後の特徴として、複雑な出来事の背景には必ず人為による介入が存在する と想定する前近代的な(premodern)思考(これは Keeley[1999]でも指摘されていた論点)。

→こうした 5 つの特徴を持つ思考が正しい蓋然性は低い。

 

Ch.2 Why Are Conspiracy Theories So Popular?

陰謀論が何故現代ではこんなに広く流布しているのかについての分析。

➡実際には、1890 年から 2010 年までにニューヨーク・タイムズに投函された陰謀論の数を調査した研究によると、1890 年から一貫して陰謀論は減少傾向にあるらしい*1

 

プロパガンダ陰謀論を分析する際の有益な観点として、情報の生産者(producer)と情報の消費者(consumer)の区別

➡生産者も消費者も、プロパガンダ陰謀論(true)であるから、情報を生産し消費していると考えられがちである。

 

・ただ、実際には、金銭や政治上の意図から陰謀論プロパガンダを生産する生産者もいるし、消費者も単に変なニュースを共有する目的で陰謀論に接しているかもしれない。

➡人々が陰謀論を生産したり消費したりする場合、それを真だと信じていると想定する必要はない。ただ、そうした陰謀論を信じている人も多いので、以下では陰謀論を信じてしまう人の心理的カニズムの話に移る。

 

・(ここはあんまり議論に関連しない脱線が入る)心理学者は、陰謀論者がなぜ陰謀論を信じるのについて、中立的な立場から論じられると信じているが、これは奇妙である。なぜかというと、普通、信じていることがおかしくない事柄に関して、なぜそうした事実を信じているのか、あえて問うことなどないから(バナナが存在していることを人々が信じているどうかをわざわざ調べるか?)。

陰謀論を何故信じているか調査する時点で、既に陰謀論に対してバイアスがかかった態度となっている。

 

・何故、人は陰謀論(Conspiracy Theories)を信じるのか。心理学研究による 2 つの洞察。

①故意性バイアス(intentionality bias)や比例バイアス(proportionality bias)などのバイアスによる影響

②一種のパーソナリティの問題。陰謀論マインドセット(conspiracy mindset)を持つ人は他の人に比べて陰謀論を信じやすい。

 

・①の解答の問題点は、なぜ、一部の人々だけが陰謀論を信じるのかの説明になっていない点。

➡ほぼすべての人間がバイアスの影響を受けるが、陰謀論に染まるのは一部。

 

・②の問題点について。確かに、陰謀論マインドセット陰謀論の信じやすさに影響を  与えていることは、心理学研究からも裏付けられている(e.g. ある陰謀論を信じている人は、芋づる式に他の陰謀論も信じる傾向がある。Goertzel  によって指摘された  Monological belief system として知られる陰謀論的思考の特徴*2)。

➡問題は、陰謀論マインドセットが個人のパーソナリティかどうか。

 

・普通、パーソナリティ(特性)と呼ばれるものは、(1)それ自体は信念ではない(e.g.  心理学のビック・ファイブ(開放性、誠実性、外向性、協調性、神経症傾向))、(2)遺伝的基盤がある、という特徴を持つ。

➡一方で、陰謀論マインドセットは、(1☆)何らかの観念や信念を信じることに関わっており、(2☆)このマインドセットに遺伝的基盤があるかどうかは論争的

 

・なので、陰謀論マインドセットは、パーソナリティ特性ではなく、イデオロギーとして解釈する方が適切。

➡Cassam のイデオロギーの定義・・・An ideology is a set of fundamental ideas and beliefs that shape one’s understanding of political reality(Cassam[2019]p. 46)

 

・とりあえず、陰謀論を信じやすい人は陰謀論マインドセットを持っているとして、陰謀論を信じやすい人の特徴とは何か?

➡(これは陰謀論を信じやすいかどうかというよりどの陰謀論を信じるのかという問題だが)自分の政治的信念にあった陰謀論を人は信じやすい。また、過去において、実際に陰謀の犠牲者であったという事実なども陰謀論の信じやすさに影響する(e.g.  アフリカ系アメリカ人は白人よりも陰謀を信じやすいという調査結果が出ているがこれはタスキギー事件等の影響があるとされる)。

 

・一方で、人々を引き付ける陰謀論側の特徴には、隠された世界の真実を明らかにしてくれる一種の物語(stories)であること、無意味な現象・世界に何らかの意味付けを与えてくれるという点がある(e.g. ダイアナ王妃の事故死を暗殺とする陰謀論)。

➡こうした特徴は、宗教的な信念とも親和性が高いし、第 1 章での前近代的な思考とも関連している。

 

・こうした混沌とした世界に一定の秩序を与えてくれる陰謀論には、いいところもあるようにも見えるが…

➡そうした評価を下すためには、陰謀論が、陰謀論者や社会に与える悪影響をきちんと評価する必要がある。第 3 章へ…

Ch. 3 The Problem with Conspiracy Theories

・第 3 章のテーマは陰謀論が与える様々な悪影響について。

 

・哲学者の中には、陰謀論にも一定のメリットを認めるものもいる。たとえば、哲学者の Coady は、陰謀論には、政府による望ましくない活動を監視し白日の下にさらす社会的メリットも存在する。一方で、陰謀論を信じるデメリットを受けるのは、基本的に陰謀論者自身に限られる*3

→Cassam の目的は、陰謀論の悪影響を誤って低く見積もっている、こうした陰謀論弁護 者(conspiracy apologists)を批判すること。

 

陰謀論の悪影響には、陰謀に加担していると間違われた個人が危害を受けるようなものも含まれる。けれども、本章で中心的に取り扱うのは陰謀論の社会的な影響。

陰謀論による社会的悪影響は、陰謀論知的に有害である(intellectually harmful)点と関わっている。具体例として、反ワクチン活動の影響を受けて、はしかワクチンが安全で効果があるということを知っている(know)と言えなくなってしまった例。

 

・Cassam によると、ある命題について、知っている(know)、あるいは、知識(knowledge)を持っていると言える条件は、(1)その命題が真である(2)その命題が真であることに自信がある(confident)(3)その命題が真であることに自信を持つ権利(right)がある、こと。

➡はしかワクチンに当てはめると次のようになる。(1☆)はしかワクチンは実際に安全で効果がある(2☆)はしかワクチンが実際に安全で効果があることに自信がある(3☆)はしかワクチンが実際に安全で効果があることに自信を持つ権利がある。

 

・医療従事者からの適切な情報提供によって、(1☆) (2☆) (3☆)の条件が満たされている。
➡ワクチン陰謀論に晒されることで、(2☆)の条件が脅かされている。

 

・ただ、こうした議論に対して、ワクチン陰謀論者は、ワクチンを安全とする現在の医学界の見解がそもそも間違いであり、、(3☆)はしかワクチンが実際に安全で効果があることに自信を持つ権利がある、という条件がそもそも満たされていないと主張するかもしれない

 

・それでは、ある人の証言(testimony)が、ある命題について自信を持つ権利を生む条件は何か? Cassam によると、証言を行う人が、資格があり(qualified) 、信頼に値する (trustworthy)存在であることが重要。

➡当該分野の適切な知識*4があり、専門家共同体から認められた専門家による証言が、自信を持つ権利を生むためには必要になる。陰謀論者には、こうした専門性が欠けている場合が殆どなので、彼らの証言によってそもそも(3☆)の条件が満たされていないと考えることはできない。

 

・以上のような反論に対して、陰謀論者側の典型的な反応は、彼らが独自に専門家とみな す人々を担ぎ出すこと。次に、こうした陰謀論側の専門家は信用できないと批判されると、今度は、①誰が専門家とみなされるのは特定の観点に相対的であるから、既存の専門家に  自分たちの専門家の権威が批判されても、後者の権威は依然揺るぎないと開き直るか、②専門性そのものを否定する(こうした②の態度は陰謀論の素人趣味とも関連している)。

 

陰謀論者の専門知に対するこうした態度は、「専門知の死(the death of expertise)」を助⾧する。

➡「専門知の死」とは、専門的知識自体は未だ存在しているものの、冷静で客観的な知識  の排除が横行すること。知識を得る重要な源泉が専門家からの証言であることを考えると、専門知の否定は知識を得る手段を妨害する点で問題。

 

・別の問題点として、少数の個人による陰謀を強調する陰謀論は、人種差別や貧困、ジェンダー平等などの構造的な対処を必要とする社会問題から、関心を逸らせてしまう。

 

・それでは、Coady が指摘したようなメリットは、陰謀論には存在しないのか?

➡実際の陰謀論者は、陰謀の暴露に役立つような理想的な陰謀論者像とかけ離れており、真理を追究したり、正しい証拠に基づいて事実を明らかにするような人々ではない。

 

・以上のメリット・デメリットを総合するとやはり陰謀論(Conspiracy Theories)は非常に問題がある。

➡それでは、こうした陰謀論にどのように対処すべきなのか。第 4 章へ…

 

Ch. 4 How to Respond to Conspiracy Theories

陰謀論者に対応することの困難さと反論(rebuttal)と説得(persuasion)の区別。

➡反論は理論に対して、説得は人に対して行われる。適切な根拠と論証を用いて理論に反論したとしても、それを受け入れなければ説得したことにはならない。陰謀論者を説得することは難しそう。

 

陰謀論者を説得するための 1 つの提案として、Sunstein と Vermeulen によって提案されたのが、認知的浸透(cognitive infiltration)。

➡認知的浸透とは、陰謀論者の集まる場にこっそり忍び込み、彼らの信念を改訂するような事実の提示やさりげない説得を行う。

 

・Sunstein と Vermeulen の提案の背景にあるのは、人々は非合理的だから陰謀論に陥るのではなく、情報が不足しているから陰謀論に陥るのだという考え方。

➡しかし、情報が不足しているから陰謀論に陥るのだという考え方は奇妙(たとえば、9.11に関する情報は本当に不足しているのか?むしろ情報過多では?)。

 

陰謀論者が情報を解釈する際の 2 つの特徴

陰謀論者の元々の信念や世界観に合致しない情報を排除する bubble effect。Sunstein と Vermeulen が陰謀論者の説得を困難にする self-sealing quality と呼んだもの。これは、陰謀論の 6 つ目の特徴でもある。

②自分の信念に反する情報に触れると元の信念が更に強化される backfire effect

➡情報に晒すことを目的とした認知的浸透では、反発と陰謀論の再強化を招きかねない。

 

・じゃあ、陰謀論者に対応するためにどうすればよいの?

➡Cassam の提案・・・陰謀論者の中には、もう手の付けられないほど自分の世界観に浸っている hard-core な人が存在する一方で、まだ穏健な程度で済んでいる人や、陰謀論の入り口で踏みとどまっている人も存在する。陰謀論への対策は、こうした人々を対象とすべき。

 

・対応策は、知的な対応策と政治的な対応策に分かれる。

→知的な対応は、陰謀論のよって立つ根拠を丁寧に反論し、そうした情報を広めることでできる限り陰謀論の拡散を防ぐこと。

 

・政治的な対応策は 3 つ存在する。①陰謀論が持つ政治的プロパガンダとしての側面を持つことを明らかにする*5陰謀論批判が政府の不正の擁護ではないことを示す③大文字の陰謀論と小文字の陰謀論を区別する。

➡これに加えて、陰謀論に対抗するために別の陰謀論を拡散しないこと。

 

・もう 1 つの有力な対抗策は、教育によって早期から critical thinking や open-mindnessといった知的徳(intellectual virtues)を涵養すること。

➡ただこのアプローチには、①既に一通りの教育を終えた成人には有効ではない、②陰謀論に陥っている人は、こうした徳を持っていないのではなく、過度にこうした徳を発揮している (たとえば、陰謀論を信じる人は open-mindness の過剰に陥っている)という限界もある。

 

・また別のアプローチとして、陰謀論反ユダヤ主義や極右のイデオロギーと結びついてきた歴史があることを指摘して、陰謀論を信じることは不名誉で恥ずべきことだという(emotions)に訴えるやり方もありうる。

 

・一番最後に、これまでのアプローチを Rebuttal、Education、Outing にまとめ直して本書は終わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1:Uscinski, Joseph E., and Joseph M. Parent. American conspiracy theories. Oxford
University Press, 2014.

*2:Goertzel, Ted. "Belief in conspiracy theories." Political psychology (1994): 731-742.

*3:Coady, David. What to believe now: Applying epistemology to contemporary issues. John Wiley & Sons, 2012.

*4:ここでの知識は認識論的な意味ではなく日常の意味での知識。

*5:たとえば、左翼的な人にその人が染まっているプロパガンダが極右が特定の目的を達成するために流した陰謀論だと教えてあげれば、陰謀論から距離をとるかもしれない。

エピストクラシー関連の文献リスト

最近のエピストクラシー関連の文献のまとめ。主にBrennanのAgainst Democracy以降の文献なんで、クリスティアーノとかエストランドとかそこら辺の民主主義論の基本文献でエピストクラシーにも関連するものは入ってません。順次足していきます。

 

Bhatia, Udit. "Rethinking the epistemic case against epistocracy." Critical Review of International Social and Political Philosophy (2018).

Blunt, Gwilym David. "The case for epistocratic republicanism." Politics 40.3 (2020): 363-376.

Brennan, Jason. "Does the demographic objection to epistocracy succeed?." Res Publica 24.1 (2018): 53-71.

Brennan, Jason. "In defense of epistocracy: Enlightened preference voting." The Routledge Handbook of Political Epistemology. Routledge, 2021. 374-383.

Brennan, Jason. "Giving epistocracy a fair hearing." Inquiry (2019): 1-15.

Gibbons, Adam F. "Political Disagreement and Minimal Epistocracy." J. Ethics & Soc. Phil. 19 (2021): 192.

Goodin, Robert E., and Kai Spiekermann. An epistemic theory of democracy. Oxford University Press, 2018.

Gunn, Paul. "Democracy and epistocracy." Critical Review 26.1-2 (2014): 59-79.

Gunn, Paul. "Against epistocracy." Critical Review 31.1 (2019): 26-82.

Hédoin, Cyril. "The ‘Epistemic Critique’of Epistocracy and Its Inadequacy." Social Epistemology (2021): 1-13.

Hinze, Jakob. "Does epistemic proceduralism justify the disenfranchisement of children?." Journal of Global Ethics 15.3 (2019): 287-305.

Holst, Cathrine, and Anders Molander. "Epistemic democracy and the role of experts." Contemporary Political Theory 18.4 (2019): 541-561.

Ingham, Sean, and David Wiens. "Demographic Objections to Epistocracy: A Generalization." Philosophy and Public Affairs (2021).

Jeffrey, Anne. "Limited epistocracy and political inclusion." Episteme 15.4 (2018): 412-432.

Klocksiem, Justin. "Epistocracy is a Wolf in Wolf’s Clothing." The Journal of Ethics 23.1 (2019): 19-36.

Kuljanin, Dragan. "Why Not a Philosopher King? and Other Objections to Epistocracy." Phenomenology and Mind 16 (2019): 80-89.

Landa, Dimitri, and Ryan Pevnick. "Representative democracy as defensible epistocracy." American Political Science Review 114.1 (2020): 1-13.

Malcolm, Finlay. "Epistocracy and Public Interests." Res Publica (2021): 1-20.

Manor, Aylon. "Polycentric Limited Epistocracy: Political Expertise and the Wiki-Model." Episteme (2020): 1-20.

Moraro, Piero. "Against epistocracy." Social Theory and Practice 44.2 (2018): 199-216.

Reiss, Julian. "Expertise, agreement, and the nature of social scientific facts or: against epistocracy." Social epistemology 33.2 (2019): 183-192.

Somin, Ilya. "The promise and peril of epistocracy." Inquiry (2019): 1-8.

Umbers, Lachlan Montgomery. "Democratic legitimacy and the competence objection." Res Publica 25.2 (2019): 283-293.

Vandamme, Pierre-Étienne. "What’s wrong with an epistocratic council?." Politics 40.1 (2020): 90-105.

Vrousalis, Nicholas. "Public ownership, worker control, and the labour epistocracy problem." Review of Social Economy (2020): 1-15.